三階席のメモ

自身の備忘録。気まぐれで追加していきます。

初代尾上辰之助

人物像

高橋睦郎

立役では辰之助尾上辰之助)が忘れられません。あんなに男の色気のある人って見たことがないんですよ。亡くなる直前に雀右衛門が会わせてくれて、あまりの色気に驚いて。会ったあと雀右衛門に「いやあ、あの人とだったら寝ることができるかもしれない」といってしまったくらい(笑)。

山川静夫 ほれこみぶりがよくわかりますね(笑)。彼は色気もあるし芸も巧みで、玄人好みというか、高橋さんも含め目利きの人に好かれました。最後に辰之助の劇場中継を担当したのは『暗闇の丑松』。すばらしい出来でした。)

咲きかけて俄かに寒き昨日今日

たった四十歳で散ってしまった辰之助に手向けた句です。彼の色気って辛抱から生じていると思うんです。山川さんもおっしゃるように巧い人で、だからこそ若いころはお父さんの松緑に押さえられたようなところがあって、ずっと辛抱していたんです。長い時期を耐えたあと、さあという矢先の死でした。亡くなったのが三月の末で、桜が咲き始めたと思ったら寒が戻って。満開にならないまま亡くなってしまった。

(「百点対談 名優に捧げる句」『銀座百店』2022年4月 №809)